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2017年7月の英語読書会

2017年7月の英語読書会では、Selma Lagerlöfの「Jerusalem Book Two “Hellgum”」の前半を読みました。強イングマールのダンス小屋でダンスを楽しんでいた若者たちが、突然の嵐に襲われているころ、カーリンも悪夢にうなされていた。そして目覚めてみると、まるで呪いに掛けられたように足腰が立たなくなり、生きる気力さえだんだん色あせてくるのだった。

ジェニファーさんが夏休みに入りますので8月はお休みで、次回は9月3日(日)14時~16時、「Book Two “Hellgum”」の後半と、時間があれば次の “The New Way”を読みます。

強イングマールの所でダンスが行われたその夜、夫のティムズ・ハルバーは出かけていて家にいなかったので、カーリンは居間から離れた小さな部屋で一人で寝ていた。夜中に彼女は恐ろしい夢を見た。夢の中では、イーロフが生きていて、大きな宴会を催していた。彼女は隣の部屋で彼がグラスをカチャカチャ鳴らし、大声で笑いながらみだらな歌を歌っているのが聞こえた。夢の中でイーロフと彼の飲み仲間たちはだんだん騒がしくなり、ついにはテーブルや椅子を叩き壊そうとしているようだった。カーリンはひどく驚いて目を覚ました。しかし、目が覚めた後もその音は続いていた。地面は揺れ、窓はガタガタと鳴り、屋根の瓦は吹き飛ばされ、切妻の近くに植えられた梨の老木はその太い枝で家を激しく打ち付けた。それはまるで最後の審判の日が来たようだった。

その音が絶頂に達した時、窓ガラスが吹き飛ばされて床にたたきつけられ、粉々に割れたガラスがガラガラと音を立てて飛び散った。一陣の突風が部屋の中を吹き抜けたとき、カーリンは耳元で笑い声を聞いた。その笑い声は夢の中で聞いたものと同じようなものだった。彼女はもうこれで死んでしまうのだと思った。こんな恐ろしい気持ちに襲われたことは今までに一度もなかった。彼女は全身凍えて氷のように冷たくなった。

突然音が止んで、カーリンは生き返った心地がした。穏やかな夜の風が部屋に吹き込んだ。しばらくしてカーリンは起きて割れた窓ガラスを何かでふさごうと思った。ところがベッドから立ち上がろうとしたら、足がもつれて歩くことが出来なかった。「気持ちを落ち着ければ歩けるようになるさ」と彼女は思って助けを求めて叫ぶこともなく静かにまたベッドに横たわった。しばらく間を置いて、彼女はもう一度試みた。今度もまた彼女の足は言うことを聞かず、ベッドの横の床にうつむけに倒れてしまった。

朝になり家の中に活気がもどってきて、医者が呼ばれた。医者は、カーリンに何が起きたのか皆目わからなかった。彼女は病気ではないようであったし、麻痺したようでもなかった。医者の見解では、彼女はただびっくりしただけだろうということだった。「しばらくすれば治るだろう」と彼は言った。カーリンは医者の言い分を聞いていたが、あえて反論はしなかった。しかし彼女は、夜の間にイーロフがこの部屋に来て、それがトラブルの原因となったと固く信じていた。そしてまた、このショックからは永久に逃れることはできないだろうと思った。

その日彼女は、午前中ずっとベッドの上でうずくまっていた。彼女は、どうして神がこのような試練を自分にお与えになったのかを考えていた。彼女は自分の良心についてじっくり考えなおしてみた。しかし、そのような恐ろしい罰を受けるような罪は思いあたらなかった。「神様は不公平だわ」カーリンは思った。午後には彼女はストームのミッションハウスに連れて行かれた。そこではダグソンという信徒伝道者が集会を仕切っていた。カーリンはどうして自分がこのような罰を受けたのか彼なら教えてくれるだろうと思った。

ダグソンは普段から評判の良い説教者だったが、その日は特に聴衆が多かった。おやおや、今日は何と大勢の人がミッションハウスに集まってきたことでしょう。そして、皆が皆、夕べ強イングマールの小屋で起こったことで持ち切りであった。村人たちは皆、極度の恐怖におびえており、その恐怖を根絶するような神のみ言葉が力強い説教で語られることを切に願っていたのだった。そこに集まってきた人のうち、部屋の中に入れたのはわずかに1/4ほどであったが、ダグソンの声はとても力強かったので外にいる人たちにもよく聞こえた。もちろん彼は何が起きたのか知っており、人々が何を聞きたいかを知っていた。彼は地獄や闇の王子を描いた恐怖をあおる話で切り出した。彼は聴衆に、暗闇の中をこそこそ歩き回って人の魂を捕え、罪に落とし入れようとし、悪の罠を仕掛ける悪魔について話した。人々は身震いした。彼らは、人々を試み破滅に導こうとしている悪魔に満ちた世を見ているように思った。全ての物は罪深く危険なものであった。彼らは落とし穴の周りをさまよい、森の獣のように狩り出され、いじめられる。ダグソンがこのように力を込めて話す時、その声は突風のように部屋を突き刺し、その言葉は炎の舌のようであった。

ダグソンの説教を聞いて、人はみなごうごうと燃え盛る炎を想像した。この悪魔や火や煙についての話を聞くと、皆一様に、燃え盛る山火事に囲まれたような気持になった・・・炎があなたの歩いている下草の上をちょろちょろと這っている、あなたの呼吸する空気は煙で充満している、熱気があなたの髪の毛を焦がす、その間、火は唸りをあげてあなたの耳をつんざく、そして飛び散る火の粉はあなたの衣服に着いて燃え上がらせる。

こうしてダグソンは人々を炎と煙と荒廃に追いやる。彼らの前にも後にも右にも左にも炎があり、その先には滅亡しかない。しかし、このような恐怖を通ったのち、彼は人々を平和で穏やかで安全な緑の森に導く。そこは、花が咲き乱れる野原の真ん中にイエス様が座っており、狩り立てられ捕獲されて彼の足元に身を投げ出した男女に向かって救いの手を伸べている。そして今、全ての危険は消え去り、もはや苦痛も迫害もない。

ダグソンは自分が感じたことをそのまま話した。彼は、自分がいま、イエスの足元にひれ伏していると思った時、至上の平安と心の安らぎがおとずれ、この世の恐れや誘惑から解放されるのだった。

礼拝が終わるとそこには大きな感情の高まりがあった。たくさんの人が彼の所に駆け寄ってきて、涙を流して彼に感謝した。彼らは口々に彼の言葉によって神に対する真の信仰に目覚めたというのだった。しかしそんな時もカーリンは感動もなく座っていた。ダグソンが話し終わっても彼女は、彼の話からは何も得るものはないと非難するかのように、重い瞼を上げて彼を見つめるだけだった。その時、部屋の外から、何者かがそこにいる者全員に聞こえるような大きな声で叫んだ。「やあやあやあ、パンの代わりに石を与える者達よ、やあやあやあ、パンの代わりに石を与える者達よ。」

すると、そんな風に呼ばわるものはいったい誰なのか見ようと皆は外に駆け出した。しかしカーリンは相変わらず途方に暮れてそこに座っていた。間もなく彼女の家のものが帰って来て、あの外で叫んでいたのは、背が高く色の浅黒い見知らぬ男だったと告げた。礼拝がまだ終わらぬうちに、一人の金髪の女性を連れた彼が、馬車に乗ってこちらに来るのが見えた。彼らは説教を聞くのを止めてその男を追い払おうとした、そのとき男は立ち上がって話しかけてきた。何人かの者はその女性に見覚えがあると思った。彼らはその女性はイングマールの娘の一人で、アメリカに行って向こうで結婚したものだと言った。男は明らかに彼女の夫だった。もちろん、人々は彼女が少女だったころの普通の農家の娘の格好をしている時のことしか覚えていないので、その彼女が大人になって都会の女性の服装をして戻ってきたときには、それと見分けるのは簡単ではなかった。

カーリンと見知らぬ男はダグソンについては明らかに同じ気持であった。カーリンはその後2度とミッションハウスには行かなかった。

しかし、夏の終わりごろバプティストの信徒が教区にやってきて洗礼をほどこし、入信を勧めに来た時、彼の言葉を聞きに行ってみた、また、十字軍が村のあちこちで集会を開いたとき、その一つに出かけてみた。

教区の中はいろんな宗教が荒波のように渦巻いていた。人々はそれなりに自分の求めていたものを見つけたように見えた。カーリンもいろいろな説教を聞いて回ったが、彼女に安息を与え得たものは一つもなかった。

ビルガー・ラーソンという男は鍛冶屋で本道の近くに工場を持っていた。彼の工場は小さくて、入り口は低く窓の代わりに小さな穴が開いているだけだったので、中は大変暗かった。ビルガー・ラーソンは、日常使われるようなナイフを作ったり、錠前を修理したり、車輪に鉄のタイヤを付けたり、ソリに滑り板を付けたりしていた。他に仕事のない時は釘を作っていた。

ある夏の夕方、工場はとても忙しかった。一つの金床でビルガーは釘の頭を平らにし、もう一つの金床では彼の一番上の息子が軸の部分を作り所定の長さに切り取っていた。二番目の息子はふいごを吹き、三番目の息子は火床に石炭を入れ、鉄を焼いて、十分赤くなったらそれを鍛冶場に運んだ。四番目の息子はまだ7歳足らずであったが、完成した釘を集めてそれを水槽の中に放り込み、その後それを集めて結束した。

彼らが忙しく働いている時に、一人の見慣れぬ男がやって来て入り口に立った。彼は背が高く日焼けしており、体をほとんど二つ折りにしなければ入り口から中を覗き込むことはできなかった。ビルガー・ラーソンは仕事を止めて、その男が何を望んでいるのかを窺った。「お仕事中、邪魔をしてすみません。特に用事があるわけじゃないんですが」見知らぬ男は言った、「わたしも若い頃鍛冶屋をやってたもので、鍛冶屋の前を通るとどうしてもちょっと中を覘かなくてはいられなくて。」

ビルガー・ラーソンは彼のごつごつした鍛冶屋特有の手を見た。彼はすぐに、どこの誰で、いつからここに居るのかと聞いた。彼は愛想良く答えたが、自分が何者であるかは言わなかった。ビルガーは彼のことを賢く感じの良い男だと思ったので、仕事場をざっと見せた後、彼と一緒に外に出て息子の自慢話を始めた。彼は、息子たちが大きくなって仕事が手伝えるようになる前はとても大変だった、しかし、今、四人とも手伝えるようになってすべてが順調にいくようになった。彼は、「数年たてばわしも金持ちになれそうだ」と言い切った。

見知らぬ男もこれにちょっと微笑んで、ビルガーの息子たちがとても協力的だということを聞いてうれしいと言った。彼の重たい手をビルガーの肩に置いて、彼と真正面から向き合って言った、「物質的な面で、あなたは息子さんたちから素晴らしい支援を貰っている。だからきっと精神的な面でもあなたは彼らに支えられていることでしょう。」ビルガーはうろたえて彼を見つめ返した。見知らぬ男はさらに付け加えて言った、「こんな考え方はあなたにとって初めてですよね。この次会う時までに考えておいてください。」そう言い残して彼は笑顔でそこを立ち去った。ビルガーは頭を掻きながら仕事場に戻った。しかし、その後数日間、彼の心は見知らぬ男の投げかけた言葉に取りつかれた。「あの男はどうしてあんなことを言ったんだろう。」彼はいろいろ考えを巡らせた。「わしの理解できない何かが背後にあるに違いない。」

見知らぬ男がビルガーに会った翌日、ティムズ・ハルバーの店で不思議なことが起こった。その店は彼がカーリンと結婚してから義理の弟のブレット・グンナーに譲られたものだ。その時グンナーは出かけていて不在だったので、ブリタが店番をしていた。ブリタは母の名前をとってつけられたのだが、大イングマールの妻の血をよく引き継いでいて美人だった。それどころか、彼女はこれまでイングマール農場で生まれ育った誰よりも際立って美人であった。そのように外見はこれまでのイングマールとは全く異なっていたが、それにもかかわらず他のイングマールと同じようにとても誠実で良心的であった。

グンナーがいないとき、ブリタは自分流のやり方で店を切り盛りした。老コーポラル・フェルトが酔っぱらって千鳥足でやって来てビールをくれと頼んでも、ブリタはそっけなく No と言う。一方貧しいコルビョルンのレーナがきれいな襟飾りを買いに来たときは、数ポンドのライ麦粉を持たせて家に帰すのだった。農家の婦人が薄手の布を買いに来ると、もっと丈夫で自分にふさわしい布を自分の機で織りなさいといって家に帰した。子供たちはなけなしの小遣いでキャンデーとかレーズンを買いたいと思っても、ブリタのいるときに敢えて店に入るものはいなかった。

その日はほとんど客が来なかった。だから彼女は何時間も虚空を眺め、その眼に絶望の色を浮かべて一人で座っていた。やがて彼女は立ち上がり、ロープをとって店から小さな脚立をもって奥の部屋に行った。そして、ロープの一方の端を輪に結び、もう一方を天井の鉤に結んだ。ちょうど彼女が輪の中に首を入れようとしたとき、偶然下を見た。

そのとき戸口が開いて、背の高い色の浅黒い男が入ってきた。明らかに彼女は男が店に入ってきたことに気付いていなかった。男は店に誰もいないのを見て取ると、カウンターの後に回って、隣の部屋に通ずるドアーを開けた。

ブリタはゆっくり脚立から降りてきた。男は何も言わず店の方へ引き下がった。ブリタはゆっくり彼の後について行った。ブリタはその男と面識は無かった。彼女はその男の黒い巻き毛、あごひげ、鋭い目つき、ごつごつした手を見た。彼は上品に着こなしていたが、雰囲気は労働者であった。男は入り口近くの壊れかけた椅子に腰かけると、ブリタの方をじっと見た。

 ブリタはその時はもうカウンターの後に立っていた。彼女は彼に何かご用ですかとも聞かず、ただ彼がいなくなってくれることを望んでいた。男はブリタの方をじっと見つめて、彼女から目を離すことは無かった。ブリタはその男の視線に縛られたように感じて身動きすることも出来なかった。彼女はだんだんイライラしてきて、心の中で思った、「どうしてあなたはいつまでもそこに座って私のことを見つめているの。私は一人になったらすぐにでも私のやりたいことをやろうとしているのが分らないの。それが何か私の助けになるというならば、あなたが私の邪魔をするのは構わないわ。だけどいま、そんなのはなんの治療にもならないわ。」ブリタは心の中でつぶやいた。

その間、男はずっと彼女を見つめていた。ブリタはさらに心の中でつぶやいた「私たちイングマールはお店屋には向いていないの。グンナーと私は、彼がこの仕事を引き継ぐ前はどんなに幸せだったかわかる?皆は私たちの結婚に反対したわ。彼の髪の毛が黒いだとか、目つきが鋭いだとか、言葉がきついだとか、皆は彼の事好きじゃなかったの。私たちはお互いに好きあっていたし、グンナーがこの店を受け継ぐ前までは口喧嘩などしたことは無かったのよ。だけどそれ以来すべてがおかしくなっちゃったわ。彼には私のやり方で商売してほしかったの。私は彼が飲んだくれにワインやビールを売ることに我慢できないの。彼にはもっと役に立つ必要なものだけを買うように皆を説得してほしいと思うんだけど、グンナーに言わせるとそれはおかしな話だというの。私たちどちらも譲らないの、だからいつも喧嘩ばっかり。だから彼はもう私のこと好きじゃなくなってしまった。」

彼女は彼女の無言の哀願にも屈することのない彼に驚いて、怒った顔をして見せた。「あなたにもわかってもらわなくちゃ。彼は貧しい人々に対して執行吏に取り立てを執行させ、彼らの唯一の牛とか数匹の山羊を取り上げているのよ。そんな恥ずかしいことをしているのを知りながら、私は生き続けることはできないわ。こんなことって正しいことじゃないでしょう?だからもう行って、私に全部終わりにさせて。」

男に見つめられ、ブリタの心は少しずつ静まって来た。そして静かに泣き始めた。

ブリタが泣き始めたのを見て、男はすぐに立ち上がり、戸口の方に歩いて行った。ドアの入り口に立った時、彼はもう一度振り返って彼女を正面から見つめて太い声で言った。「あなたは死んではいけないよ。あなたが正義の中に住む時は近づいているのだから。」

そして彼は去って行った。彼女は彼が道路の方に歩いていく重い足音を聞いていた。ブリタは小部屋に走って、ロープを外し、脚立を店に戻した。そして箱の上に座って2時間ほど静かに瞑想した。彼女は長い間あまりにも暗くて自分の手も見えないほどの闇の中を迷走してきたような気がした。彼女は道に迷い、どこへ迷い込んでいくのかもわからず、一歩足を踏み出すごとに泥沼に踏み込むのではないか、あるいは躓いて真っ逆さまに奈落の底に落ち込むのではないかと恐れた。今、誰かが彼女にそれ以上先に進まないで、今日一日が終わるまでそこに座って待つように声をかけてくれた。彼女は、もう危険なさまよいを続けなくてもよいことが分ってうれしかった。そして彼女は静かに夕暮れを待った。

(by Hide Inoue)

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